「やっと、帰ってきた!」



千歳の背中が震えている。



「…ただいま。」


「おかえり。
政隆が待ってるぞ。」



芦多は黙って身体を離した。



「案内する。」



千歳は顔をみせないように、歩き出した。



「政隆の弟子がまた増えた。」


「…辰之助様に似た子どもでも増えたのか?」


「いや。」



何故か、千歳はフッと笑った。



しかし、その先は言わない。



芦多は不思議に思いながらも訊かなかった。



「ほら。」



千歳は、弟子を次々に払っている政隆を指した。



「…相変わらず、誰も政隆には敵わないようだな。」


「一回も膝ついたとこみたことないぜ。」



千歳はクックッと喉を震わせた。



「お前相手以外な。」



身体に血が駆け巡る。



下邑で、稽古をつけたことはあっても、習ったことはなかった。



久々のこの空気に、身体が、心が熱くなる。



そして、芦多は声を張り上げた。



「政隆!!!!!」



一瞬、稽古場は時が止まったかのようにしーんとなった。



背を向けていた政隆がゆっくりと振り返る。



その目は驚きで見開かれていた。