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芦多は崩れるようにして輝から降りた。



出来る限り急がせたので、輝の息は荒い。



乗っていた芦多も同じだ。



久し振りに、この門を見上げる。



いや、外から見るのは初めてかもしれない。



ここに連れて来られたときの記憶はないのだから、芦多にとって初めてみる表門だった。



「下邑から帰還した芦多だ。」



門番は一瞬はたと固まったが、すぐに芦多を通した。



「お帰りなさいませ。」



門番の微笑みが暖かい。



芦多は輝を預け、屋敷の敷地内に入った。



変わっていない。



芦多は無意識に、かつて自分が寝泊まりしていた型の住みかに向かった。



まだ、自分の部屋はあるのだろうか。



千歳はいるだろうか。



爪鷹は?



耶粗は?



政隆は?



……灯世…は? 



どくんと胸が鳴る。



「千歳…。」



回廊を歩く千歳を見つけた。



「千歳!」



千歳が振り向いた。



そして、その目が目一杯に見開かれる。



「芦多。
芦多、芦多!」



裸足のまま、千歳は回廊から飛び降りた。



「千歳!」


「帰ってきた!」



千歳に抱きつかれ、グッと息が詰まる。