千歳が部屋に戻ると、苦笑いの爪鷹が待っていた。



「灯世なんて?」



尋ねると、爪鷹は悔しそうに唇を噛んだ。



「会えなかったよ。
辰之助が衛兵置いてた。」


「…灯世には知らせないつもりか。」


「おそらくね。」



きったねぇ、と吐き捨てる。



きたないのはわかりきってることだろ、と爪鷹は投げ遣りに言う。


「辰之助も必死だな。」


「そりゃあ、やっと手に入れた女に去られたら堪らないだろう?」


「そうだけどさ。
普通、好きな女には幸せになってもらいたいもんじゃないのか?」



爪鷹はわかってないなと首を振った。



なんだよ、お前はわかってんのかよ。



「自分が可愛い奴にはそんな理屈通用しないよ?」



まあ、餓鬼にはわからないかな?と小首を傾げる爪鷹に殺意がわく。



「てめえ、言いたい放題じゃねーか。」



ピクピクと頬を引きつらせる千歳を鼻で笑い爪鷹は立ち上がった。



「まあ、俺は報告しにきただけだから。」



「帰れ帰れ。」



ケッと口を歪める千歳。



爪鷹は呑気に「じゃあね〜」とヒラヒラと手を振る。



千歳はその背後で力一杯障子を閉めた。