「まただ。」



千歳は顔をしかめる。



「子どもの叫び声みたいですけど、どうかしたんですかね。」


「どうかしたした。
もうさ、新しくこの屋敷に来たチビがうるさいのなんの。」



政隆も頭を掻いている。



「琿坐もえらい目にあわされたな。」



えらい目?と首を傾げいると、琿坐が走ってきた。



「政隆、助けろ。」



脇には子どもを抱えている。



丁度、辰清と同じ年頃の…。



キッと顔を上げたその子の顔をみて、灯世は息をのんだ。



辰清に、そっくりだ。



「辰清…?」



思わず手を伸ばした瞬間、後ろから引っ張られる。



体制を崩した灯世を、千歳が抱き止めた。



「迂濶に手を出すな。
そいつ、噛むぞ。」



噛む…?



そうそう、と政隆と琿坐も頷いている。



「こいつ、凶暴なんだよ。」



千歳が言うのも構わず、辰清はとことことその子に近づいた。



「こら、おい辰清。」



千歳が手を伸ばすが、灯世を抱いた体制からは無理がある。



辰清はするりとかわしていった。



「…。」



みんなが見守る中、二人は見つめ合う。



しばらくして、先に目をそらしたのは辰清だった。



「…灯世。」


「はい。」


「やっぱ、お前の子供はさすがだな。」


「はい?」



千歳は答えず、灯世を離した。



「帰るぞ。」



琿坐はおとなしくなった子どもをかかえ直し、帰っていった。



……一体さっきのはなんだったんだ。