回廊に出ると、ふと灯世は足を止めた。



「そうだ、少し散歩をしてから帰りましょう。」


「散歩?」


「母様のお友達のところへ行かない?」


「千歳!」



途端に辰清は顔を綻ばせる。



「千歳さんと呼びなさいと…。」



既に稽古場のほうへ走り出した辰清を目で追い、灯世は力なく呟いた。



危なっかしげにドタドタ走るのを冷や汗もので追いかけ、なんとか灯世は政隆が教える稽古場にたどり着いた。



「おお、灯世殿。」



既に、辰清は政隆に抱きついている。



「よくいらっしゃいましたな。」


「お邪魔します。」



頭を深々と下げる。



いつも、政隆は稽古がないときは辰清を構ってやってくれるのだ。



「千歳ももうそろそろ帰ってくると思いますが。」


「わかりました。」



最近、千歳は勉強にかける時間が増え、稽古場にいる時間が少なくなったのだ。



千歳と琿坐の稽古を見るのが好きだった灯世は少し寂しい。



辰清が政隆の弟子に遊んでもらっているのを眺めていると、背中から声がかかった。



「灯世。」


「千歳さん。」



どっさりと本を抱えた千歳が立っていた。