「走らないで。
こけますよ。」



こける痛さを知っている辰清は、途端に歩調を緩めた。



「ほら、今日も綺麗に作れましたよ。」


「そう。」


「丸くなったでしょう?」



残念だが、灯世にはボコボコの濡れた物体にしか見えない。



侍女のいのがコホンと空咳をする。



灯世はクスクス笑って頷いた。



「上手くなったのね。」



辰清は嬉しそうに顔を輝かせ、砂場に駆け戻っていった。



「あなた方も大変ですね。」


「可愛くて可愛くて。
逆に嘘をつくのが辛いです。」



灯世と歳の近いこの侍女は、愛おしそうに辰清を眺めた。



「…私の辰清は譲れませんよ。」


「時々貸していただければ。」



悪戯っぽく、彼女は笑った。



ぽかぽかと日差しが暖かい。



縁側に腰かけ、灯世といのは辰清を眺めた。



ひとり、蝶を追ったり、アリの行列をじっと見ている。



「灯世様は確かわたくしと同じ年でしたよね?」


「いのはおいくつ?」


「今年で20です。」


「同じですね。」