***
千歳さんに気を遣わせてしまった。
灯世は政隆と千歳を眺めながら、芦多に想いを馳せた。
今頃、何をしているんだろう。
…私のことを、忘れてはないかしら。
他の男の妻となり、子どもを宿した私を許してくれるのだろうか。
視線が下がる。
おなかに目がいった。
…忌々しくもあり、愛おしくもある。
ただ、忌々しさのほうがだいぶ優っているが。
灯世は無意識に腹を撫でた。
「灯世さん、こんにちは。」
声をかけられ、灯世は顔を上げた。
「…房姫様。」
「ごきげんよう。」
すべてを見透かしたような、笑っていない目に引き込まれる。
「聞きましたよ。
おめでとう。」
「…ありがとうございます。」
「辰之助様もさぞお喜びでしょう?」
小首を傾げる仕草が似合う美人なのに何か好きになれない。
初対面が最悪だったせいもあるのかもしれないが。