ちらりと灯世を窺うが、特に取り乱した様子もなかったので安心した。



「灯世はあいつに知らせるか?」


「いいえ。
出来れば、知られたくないです。」


「でも、いつかはあいつ帰ってくるし。
灯世も早く帰ってきて欲しいと願ってるんだろ?」



灯世は小さく拳を握り締めた。



「帰ってきて欲しいですし、いつかは知られるのはわかっています。
でも、今の大変なときに知らせを送って、芦多様を動揺させたくないんです。」


「…なるほど。」



灯世もちゃんと考えてんだな。



「確かに今、芦多に伝えでもしたら…。
あいつ、灯世にはめっぽう弱いからなぁ。」



クスリと灯世が笑う。



「なんだか嬉しいですけど、心配でもありますねぇ。」


「心配心配。
っていうより、俺が?」



首を傾げて問うた灯世に答える。



「灯世を泣かせでもしたら、俺は地獄をみる羽目になるんだよ。
あぁ、既に俺の命は秒読みだ。」


「まだ、何もされてませんよ?」


「今のところはな。
でも、灯世に何があるかわかったもんじゃない。
何かあったときにはもう、俺は手遅れだ。」



肩をすくめて見せると、灯世は困ったように笑った。



「じゃあ、私が千歳さんの命を握ってるに等しいんですね。」


「そうだ、その通り。」



暗い部屋が、灯世の笑顔で照らされるようだ。



しばらく会ってなかったせいもあって、千歳は余計に灯世が愛おしく思える。