別に悪いことをしているわけではないのに、千歳の行動は挙動不審だった。
廊下で誰かとすれ違うだけで、冷や汗が出る。
くっそう、なんで灯世の部屋は奥まったところなんかに移されたんだ。
まあ、当然のことだか腹が立つ。
辰之助め、いつか俺がてめぇに成り代わってやる。
散々お上を罵倒しながら、なんとか千歳は灯世の部屋にたどり着くことができた。
・・・しっかし、おかしいな。
千歳は柱の陰に隠れながら、灯世の部屋を窺った。
前よりももっと大事な身体になった灯世を警護する衛兵どころか、侍女もいやしない。
まさか、部屋を移されたとか!?
そうなったら、千歳には知る手立てがない。
もう、お手上げだ。
一応、見てみるか。
こういう時、型としての訓練に感謝する。
足音を殺し、千歳は障子を少し押し開けた。
・・・いる?
誰かが布団にうずくまっているのが見えた。
泣いている?
・・・なら、十中八九灯世だ。
「灯世。」
小さな声で、灯世を呼ぶ。
聞こえていないのか、灯世は振り向かない。