きっと、自分は芦多に会っていなかったらここまで辰之助を頑なに拒むことはなかっただろう。



もしかしたら、想いさえ寄せていたかもしれない。



ただ、純粋に真っ直ぐに自分を好いてくれている辰之助を裏切っているように思えてならなかった。



「皆、下がって良いぞ。
侍女は廊下に控えていろ。
私は灯世と二人きりになりたい。」



灯世は目を開けて、辰之助を見上げた。



二人きり?



その間に、皆がすすっと引いていく。



待って、二人にしないで。



その願いも虚しく、部屋はしんとなった。



「男かな、女かな?」



唐突に、辰之助が灯世の頭を撫でた。



不意打ちに、灯世はびくりと身をすくませる。



「・・・申し訳ありません。」



辰之助の傷ついた顔から目をそらし、灯世は謝った。



でも、自分が頭を撫でられたいのは、辰之助じゃない。



よくやったと、誉められたいのは、辰之助じゃない。



ここにはいない、この屋敷にはいない、最愛の人。



灯世の目から涙がこぼれた。



「ゴメンなさい、独りにして・・・。」



しばらく、辰之助は何も言わなかった。



やがて、静かに立ち上がると、不審がる侍女達を押しのけて、去っていった。