「なぁ、灯世。」



ようやく歩き出した耶粗が前を見たまま、灯世を呼んだ。



「はい?」


「八重様って、いつもあんなか?」


「はい、そうですけど。」



どうかしましたか?と訊くと、耶粗はポリポリと頬を掻いた。



「……母親って、なんかいいもんだな。」


「…そうですね。」



見上げようとすると、ぷいっと顔を背ける耶粗。



初めて屈強な耶粗の幼い一面を見ることができた。



「灯世、お前、兄弟は?」



唐突に訊かれ、灯世は考えこんだ。



「うーん。
いた、と聞いたことはありますけど、会ったことはないです。
母様にその話題を振ると、いつも流されるんので、私も詳しくは知りません。」


「…そうか。」



どうしてそんなことを訊くのだろう。



灯世は耶粗に話しかけようとしたが、あまりにも寂しそうな顔をしていたのでやめた。



耶粗さんには、兄弟がいた記憶があるのだろうか。



母親の記憶も。



灯世は気付かれないように、そっと耶粗を窺った。



さっきの質問きりで、耶粗は何も話さなかった。