パサッと、髪を結んでいた紐をほどく。



さらさらと黒髪が耶粗の輪郭を隠した。



「お疲れ、灯世。」


「耶粗さんこそ。
どこか痛めたところはありませんか?」


「ないない。
灯世は?
体力の消耗激しくないか?」



灯世は首を横に振った。



「よかった。
中戻るぞ。」



灯世に怪我なんか負わせたら芦多殺される、と耶粗は肩をすくめた。



「灯世、よくやりました。」



門の陰で待っていた八重が、二人の前に立った。



「耶粗さん、でしたね?
あなたも見事でした、お疲れ様です。」



隣で耶粗が照れたように身動きする。



見上げると、唇を尖らせて、地面を見つめていた。



…母親というものに慣れていないせいなのかもしれない。



八重は灯世を見つめ、優しく笑っている。



「よくここまで頑張りましたね。
母様も嬉しいわ。」


「はい。」



耶粗の前で褒められ、灯世は顔を赤くした。



なんだか、照れる。



「さあ、早く中に入りましょう。」



なかなか動かない二人を促し、八重は屋敷に向かって歩き出した。