気分が沈んだまま、灯世は里に招かれた茶会へ出席した。
周りのお喋りも、まったく頭に入らない。
ふと、静かになったなと思い顔をあげると、みんなの視線が灯世に集中していた。
「灯世さん。」
にんまりと、里が笑う。
「お世継ぎはまだですの?」
…この質問は聞きあきた。
みんなみんな、同じ質問をする。
そして大抵、そう訊く顔は意地悪いのだ。
「はい、まだです。」
「あら、まぁ。」
クスクス笑いが広がってゆく。
「辰之助様も、辰太郎様も、さぞかし残念でしょうね。」
灯世は答えずに菓子を口に運んだ。
辰之助は何も知らず、「また灯世は呼ばれたのか、人気者だな。」と嬉しそうに笑う。
その顔は何の悪意もなく、純粋だ。
そこが辰之助を憎みきれない理由でもあった。
…あの人は、まだ子どもだ。
21になっても変わらない。
初めて会ったときから、辰之助は優しかった。
公平にみれば、辰之助はただ自分に素直だっただけなのかもしれない。