「そろそろ戻ります。
辰之助様もそろそろ起きる頃合いですから。」


「そうだな。
うん、またな。」


「はい。」



千歳はまだこうしていると言っていたので、灯世は先にそこを離れた。



足早に部屋に戻る。



中に滑り込むと、丁度辰之助が起きだしてきた。



「うん、おはよう灯世。」


「おはようございます。」


「今日は、いい天気だな。
稽古に精が出る。」



その言葉に、武術大会の想いでがよみがえった。



わんわんと鳴る会場。



勝者の嬉しそうな雄叫び。



恍惚とした、見物者の表情。



そして、



芦多。



灯世は哀しげに目を伏せた。



忘れられない。



事あるごとに、芦多が思い出される。



いや、関連付けてしまう。



そんな灯世の様子には気付かず、辰之助は上機嫌に一人で喋っている。



灯世は放心したまま、着替えを手伝った。