はぁ、とため息をつく。



まだ子どもが出来ていないのは不幸中の幸いとしか言いようがない。



出来れば、欲しくない。



毎晩、床に就く前、灯世は神に祈った。



「よぉ、灯世。」



灯世はびくりとして後ろを振り向いた。



声の主を認め、安堵のため息をつく。



「千歳さん。」


「へへっ。」



千歳は舌を出して、軽く詫びる。



隣に座ると、千歳は言った。



「最近、どう?」


「…別に、変わったことはありませんね。
毎朝、辰之助様を送り出して、その後はご婦人方のお相手をして。
夜は辰之助様のお相手をして…。」


「そっか。」



千歳はポンポンと膝を叩く。



「っにしても、よくもってんな。」


「信じてます。
帰ってきたら、この屋敷を抜け出せるように、大事な荷物はまとめてあるんですよ。」



灯世が言うと、千歳は度肝を抜かれたように反り返った。



「お前、すごいな。
女ってのは、男よりも肝が据わってるって聞いてたけど、お前はまた…。」



目を白黒させる。



えへへと笑うしかなかった。