「聞いているか?」



弱って芦多は頭を掻いた。



「…行け。」



少し悩んだ末、芦多はそれだけ言って、背を向けた。



「芦多様!」



向こうから、与作が手を振って走ってくる。



「ご無事で?」


「ああ。
見ての通り、無傷だ。」


「…ありがとうございました。」



与作は娘二人の無事を確認すると、深々と頭を下げた。



「あなた様はこの二人の命の恩人です。
ほれ、礼を!」



与作に促され、ようやく二人は我に返った。



バネで飛び上がったかのように、ぴょこんと頭を下げる。



芦多は気まずくなって、足早にその場を去った。



しばらくして、後ろを与作が追いかけてくる。



「いやいや、さすがだ。」



よねも家の外で首を長くして、二人を待っていた。



「ありがとうございます、ありがとうございます。」



何度も何度も頭を下げ、よねは手を合わせる。



「お疲れでしょう?
もう、晩飯を食べられては?」


「…頂く。」



確かに、身体が疲れきっていた。



ほぼ一日、ずっと馬に揺られていたのだ。



芦多が思っていたより、肉体の疲労は濃かった。