芦多は息を整え、馬を降りた。
降り立った地面がカシャリと音を立てる。
見ると、霜が降りていた。
吐く息がかなり白い。
芦多は悴んで感覚がなくなった指を擦り合わせた。
芦多が輝(ヒカル)と名付けた鹿毛の馬はおとなしく木に繋がれたままだ。
芦多は縄がきちんと結ばっているのを確認し、村に入って行った。
長いこと馬に揺られていた芦多にでこぼこの田んぼ道はつらい。
カクリと折れそうになる足を励まして、村長の家に向かった。
この下邑(シモムラ)は、山城の屋敷からみて下にあることから名づけられた。
なんとも単純な…。
せめて、“村”を“邑”と変えただけましなところか。
芦多は寒さに震えながら、戸を叩く。
どうやら彼らは芦多を待っていてくれたらしい、すぐに村長の妻が迎え出てくれた。
「遠方からはるばる御苦労でした。」
村長の与作は、畳の上で頭を下げた。
芦多もつられて頭を下げる。
「どうぞ、お上がりなすって。」
よねと名乗った妻が芦多に勧める。
芦多はありがたくあがらせてもらった。