「どうした、灯世。
つまらぬか?」
「いえ…。」
辰之助に声をかけられ、笑顔を取り繕う。
ならばよい、と隣の辰之助が再度料理に手をつけてから、灯世はまた畳を見つめた。
あの帰り、男の子に会えるかと期待していたのだが、どこの部屋だかさっぱりわからなくなってしまい、会えなかったのだ。
どうやらとてもショックらしく、さっきから気分が沈んでいる。
あの子は何だったのだろう。
この屋敷に出入りしてから日の浅い灯世にはわからなかった。
「灯世、甘酒を飲むか?」
「いえ、まだ結構です。」
「では、海老はどうだ?
今夜のは格別旨いぞ。」
しまった、気を使わせてしまった。
「ありがとうございます、頂きます。」
灯世は海老にかぶりついて、目を細めた。
確かに美味しい。
「ありがとうございます。」
礼を言うと、辰之助は微笑んだ。