すると、男の子はゆっくりと微笑んだ。



微かな笑み。



ぎこちなく口角を吊り上げる様子は、微笑み慣れていないからなのだろう。



灯世は不安がほどけて微笑み返した。



どこか寂しく見えるその子を包めるような温かさを意識して。



「灯世!」



前方から鋭く呼ぶ八重の声がした。



灯世がついて行っていないのに気が付いたのだろう。



いけない、と灯世は呟いた。



「失礼いたします。」



慌てて小さく一礼し、前を向き直った瞬間、八重が現れた。



「ちゃんとついて来なさい。
見ての通り複雑な道になっているのです、迷う人間もいるのですよ。
人通りが少ないこのような広い場所で取り残されたら、見つけてもらえるまでどうする気ですか。」


すみません、と謝る。



確かに好奇心にかられて迷えば、どうなることやらわからない。



「行きますよ。」



八重が前に向き直ってから、灯世は障子の中をもう一度覗いた。



まだ、いた。



さようなら、と口パクで伝えると、彼はまた少し笑った。



後ろ髪を引かれる思いで、灯世は八重の後を追った。