「神楽 玄奘」と名乗った男の声が、岩に染み入り静けさが戻る頃。
広場に明かりが一気に広がった。

壁に幾つものロウソクが置いてあり、人が火をつけて回るなど、到底無理な位の数がある。

初めて姿を現した神楽玄奘という男は、さも修験者そのものの風体をしていた…。
右手には釈杖、左手には赤子、突如灯った明かりの事は全く気にしていないといった顔で、広場の一点を見つめていた。

その視線の先には何かの儀式で使われそうな祭壇と、袈裟をつけ、白い髭を生やした老年の僧が立っている。
老年の僧は玄奘の視線を浴びたままゆっくりとした口調で話し始めた。

「よく来たな玄奘よ‥霊験高いおぬしの子、待っておったぞ。
すでに精霊となったおぬしの力が、よもや太刀打ちできなくなるとは‥。
玄奘よ、覚悟はよいのだな‥?
生誕の儀を行えば、お主もその子も元には戻れぬぞ?」

静かな時が流れる…

玄奘は腕に抱く子を見つめた後、僧を見つめ直した。

「それがこの子の宿命ならば、我が命をもって望みを託します。」

玄奘の決意の眼差しを静かに見つめた僧は言った…。

「その決意、ワシが必ずやその子に伝えよう‥。では、生誕の儀、伝承の護摩を始めよう。」