「ああ・・マリア・・・」

奴は・・・
サタンは言って、

あらわになった私の胸元に
顔を埋める。


頬ずりするように

甘く。


その名を繰り返す。


「マリア・・・」

「マリア・・・」


子供の様に、
邪気の無い顔で。

皮膚で
くちびるで
舌で

乳房から全てを
愛撫する。


恋人と混同してるのか?


それにしては、
つたない愛撫で。

性感に訴えるような
ものではなく、
どちらかと言えば、
甘えるようなソレだった。


ふと、
あの日、この男が、
盾がわりに
使用した聖典を思い出す。

それが・・・
旧世界の宗教聖典の
どれかなら、
そこにも、その名の
神的な類の象徴が
いたはずで。

クチュクチュ鳴り響く音が、
思考する脳を、
耳を通して現実に
引き戻す。


決して、
快楽を得ることのない刺激に、
悪寒を走らせつつも

それを口に含み
舌を絡める男を見入っていた。


半ば、伏せられた瞼。
この男が欲するものは
母性だ・・・