あの夜。

私が中学生になったばかりのあの日の夜。

お父さんは、仕事ですごく酔っ払って帰って来た。


なんども鳴らされるインターホンに。

私が玄関のドアを開けると。

足もとのおぼつかないお父さんが、崩れるように、倒れかかってきた。


お酒臭いお父さんに、のしかかられて。

「お水、取ってくるね。」

そう言った私に。

お父さんはそっと、囁いた。

「ヤエコ・・・。」


お父さんってば、酔っ払っちゃって。

それはお母さんの名前。

私はナナだよ。

娘のナナ。


でもお父さんが。

死んだお母さんのことを、今でも想ってくれているのが、とても嬉しくて。

私は少し微笑んでから。

台所に水を取りに行こうと。

身体をよじって。

お父さんから離れようとした。