次の日の帰り道も、また先輩は空き地で靴紐を結んでいた。

「今日は右ですか?」

「左……」

 落ち込み気味の先輩。

「先輩なら、失恋しないと思いますけど」

 バッグを持つ。

「そうかな」

「そうですよ」

 今日はずしっと重たい。

「何入れてるんですか」

「何が?」

「重たいんですけど」

 にこっと笑った顔に、心拍数が上がる。

「こないだお前が言ってた本。あれ面白いね」

「え……」

 こないだって……。

 先輩と喋っているときはよく本の話題になる。というかあたしの好きな本を薦めたり、先輩のお気に入りの本について聞いたり、図書委員会みたいな会話になる。

 大辻先輩があげた題名は、初めて帰ったあの日から昨日までの会話であたしが口にした本全部だった。

「図書室で借りたんですか?」

「うん。あとヒマだったから本屋で買った」

 バッグを手渡す。

「ありがと」

「いいえ……」

 実はあたしのサブバッグにも何冊か同じ本が入っている。

 そして、まだ大辻先輩の知らない本も。

「お前のバッグ、ちょっと貸して」

「どうぞ」

「うわ、重たっ」

 今日も隣には。

 でも今日は、本の話はやめておこう。