昨日と逆さまの意味で、時間が止まった。

 今、ピアノの前に立っているあいつは、何と言った?

 「ブカツナイデツキアウノハヤメテクダサイ」

 聞き取れない外国語みたいな響きは、カタカナのナイフであたしの心に突き立った。

 せっかく。

 せっかく。

 

 手に入れた幸せは、いとも簡単にいなくなってしまった。

 乾いた指に触れた、シャボン玉みたいに。

 

 窓の外で、いつの間にか雨が降り出していた。