『天然の有毒ガスが蔓延した為に、村を封鎖した』

『救助に向かったが、地形的な問題があり、あまり深入りが出来ない』

『残念ながら生存者は望めない』
 

もちろん、その為の偽装工作も行われただろう。

 
怪しまれない為に、異臭のする薬品を撒いたなどという噂まで聞いた。
 
どうして、そこまでして当局は新希光会とやらを庇うのか、理解出来なかった。


しかも腹立たしい事に、この混乱に乗じて上層部では利権争いが起こっているのだ。

執行庁での権力なんて、あったところで惨めなだけなのに、と吉野は思う。

そんなに井の中の蛙は素晴らしいものだろうか。

だが少なくとも、井戸から出なければそれが全てなのだろう。


「いい加減してよ……どいつもこいつも。

何で、隠すのよ……! 

意味分かんない。

いっそ、……今すぐここを飛び出して、何もかも叫び出したい気分よ」



「死ぬ」
 
樋口は、断定的に言った。

「違う」
 
吉野は短く否定し、自嘲した。

「殺される、の間違いでしょう……?」
 
ここは、それが許される場所になり下がってしまったのだ。
 

最初からそうだったのかもしれない。

清廉潔白な嘘のお面が剥がれただけで。


……吐気がする。