彼女は、無表情なまま、抑揚なく言った。


「そういえば、本当は『幸せになるね』って言いたいところなんだけど……何でかな。


私、絶対幸せになんかなれやしないって思うの。変?


でもね、おじいちゃんが言ってたように、人間は夢の中じゃ生きられないから、だから私は毎日這いつくばってでも生きているんだ……。

けどね、それでも時々思うよ」



老人は、沈黙している。



「もういやだ」


無機質な電子音が、響く。







「死んじゃいたい」






彼女はそれからしばらく声を押し殺して泣いて、それが治まってから、ふと顔を上げた。



「……ごめんね、おじいちゃん。今の無し。多分、ちょっと疲れちゃっただけなの。心配しないでね……」

彼女は、ふらりと立ち上がって、独り言を言った。


「……本当は私ごときが、辛いなんて言ってちゃいけないんだよね……。

だって、CPGの人達の方が、もっと辛いはずだもんね……」


『CPG』を引き合いに出す度に、彼女の胸はぎゅっと痛んだ。

昔からそうだった。彼女にとってその名前は、呪いのようだった。

今はもう、皮肉ですらない。


彼女は老人に背を向け、口元に諦めたような笑みを浮かべた。


「ばいばいおじいちゃん。……また来るよ」



そう言い残して、彼女は常世田征四郎の病室を後にしたのだった。




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