「日本人は、アルコールにも熱さにも寒さにも、彼等に比べたら弱いんだ。

欧米人と日本人、もし同じ量の毒を盛ったら、どっちが先に死ぬのかな? 

日本人、死ぬかな」

「死ぬんじゃね? 俺らはまあ、分かんねえけど……」
 
光は、無意識に注射針の痕をさすった。

何度目かになる、正体不明の投薬の痕だ。

「これって絶対、新薬の人体実験か何かだよな」

「そのうち、色んな毒に耐性が付くかもね」

「あるいは、ある日突然死んでるとか」

「あー、俺、後者希望ー……」

「ばーっか」
 
耕平が光にでこぴんをした。


「『俺がこんなふうになっても殺してくれない機関』だぞ? 

ここは、そういう場所なんだ。せいぜい、楽しまなくちゃな」


「生きる事を?」

「困らせる事を」

「それもそうだな」
 
そんなふうに、笑い合った。
 



彼はもう、この世にいない。