「あらやだアタシったら! 初めましてぇ。アタシここの店長兼オーナーの、白鳥ゆっ」


――ドゴォッ!と、綺麗な顔がムンク並に歪んで吹っ飛んだかと思うと、変わりに立っていたのはちぃ君だった。


唖然とするあたしと忍に構わず、ちぃ君はにっこりと床に倒れた店長を見下ろす。


「ちょっと店長~。仕事サボって何寝てるんですかぁ~」


いやいや。あなたがその手に持ってる銀のトレーで思いっきり殴ったのよね? 見間違いじゃないわよね?


「ヒドイじゃないレオォォォオ!!」


俊敏に起き上った店長にビクッと体を揺らすと、忍はのんきに「生きてるとか凄くね?」と関心している。


うん、凄いけど。忍の反応の方が凄いと思うわ。ところでちぃ君て、レオって名前なの?


「ごめんねこの人変態だからさ、近づかない方がいいよ~?」

「変態じゃないわよ! 心も外見も誰よりも乙女なんだからぁぁぁあ!」

「やだなぁ店長。どっからどう見てもオッサンだよ?」

「まだ29よぉ!」とうるさいこの人は、まさかの男なのね?


……世の中って不思議。そしてやっぱり。


「不公平……」


男なのに、もうすぐ三十路なのに。なんでそんなに綺麗なのよ!!


どんよりと暗くなるあたしに気付いたのか、騒がしかった個室が静かになる。


「あらあらヤダ。どうしたの? パスタ食べなさいよほら。美味しいわよ」

「店長の気持ち悪さに生気取られちゃったんだよね?」

「嘘だと言ってレオォォォオ!!」


ああでも店長が男で良かった。女だったら、忍うっかり惚れちゃうもの。


歯ブラシに歯磨き粉と間違えて洗顔フォーム乗せちゃうくらいうっかり惚れちゃうもの。