「我慢しなくていいのに」


あたしの気遣い、無意味すぎるわ……。


「我慢なんかしてないわよ」


のんから浴びせられる視線には気付いていたけど、目を合わせることはなかった。


スタートラインに立つ忍から、目を離さなかったから。


その内のんもあたしを見るのをやめて、スタートラインの方へ視線を移したみたいだった。


……忍は、1位を取るかしら。取ったら、約束を守らなければいけない。


それがどんな内容でも、何でも言うことを聞くと言ったのはあたしだから。


近づくなって、関わるなって、言われるかしら。


期待している言葉は、全く違うんだけど。


もし、あたしが期待している言葉とは違くても、あたしはまた勝負を仕掛けると思う。


王子様だと感じた人に、あたしの想いと同じくらい好きになってもらいたい。


ずっとずっと前からの夢。


心の底からシンデレラに憧れて、本気で王子様を探して。どれだけの人にバカにされても、変わらないあたしの夢。


だから。


『位置について――…』


ごめんね、のん。


――パンッ!!


繋がれた手はもう二度と、握り返せない。