「お。奈々先輩じゃん! 係なのかな」
グラウンドがよく見える位置に移動すると、燈磨が日差しを遮るように額に手をかざした。
見ると、確かに奈々先輩がいて、あたしが首をひねったところでのんが答える。
「透が、無理やりやらせたんだって。奈々も少しくらい行事に参加しなよーって」
「はは! だからあの笑顔か」
頬を染めて手伝いをする男子に、奈々先輩は嘘くさい笑顔を向けている。
そりゃもう黒いオーラ全開で、何であたしがこんなクソめんどくさいことを……と、全身でうったえていた。
男子は微塵も気付いてないけれど。
「ていうか、何の競技なのよ」
奈々先輩が係で、忍が出る競技。ぽつりと言ったあたしに、のんと燈磨は声を揃えた。
「「借り物競走」」
「……ふぅん」
そんな心とは裏腹な返事をしたあたしに、ふたりは不思議そうな顔をする。
そりゃそうよね。まあ分かってたけど、ホントは大声で言いたいわよ。
借 り 物 で す っ て ?
何それもしかしなくても引いたクジに“好きな人”とか書かれてるんじゃないのそうでしょ絶対そうでしょこの展開そうじゃなきゃ許さないわよ。
「苺、顔が揺るんできてコワいよ」
「てか、キメェ」
「うるっさいのよバカコンビ!!」
ああ、バレてる。いや別に、普通にしてろってのんには言われたけど……気にするじゃない。