「っ、バカなんじゃないの……っ?」
バカみたいに優しい性格なんて、もう知ってる。
分かりづらいその優しさを、あたしは出会った時から気付いていたのに。何で肝心な時には気付けなかったんだろう。
忍はいつだって、あたしのことを考えて行動してくれていたのに。
分かりづらいのよ。ホント、何なのよ。ズルい……こんなのってないわ。
そんなあたしの心が読めたのか、忍は絶え間なく涙を流すあたしを見つめて目を細めた。
「まだ気持ちの整理付いてないっつーのに、会長室でのお前はあり得なかったな。聞きわけねぇ上に胸ぐら掴むって、どんだけお前はアグレッシブなんだよ」
世界一よ。ていうか、忍だってあり得ないわよ。どんだけ頑固なの?
無理だの黙れだの、好きじゃないとか関わるなとか、いくらなんでもキッパリ言い過ぎだって自分で思わなかったのかしら。
「……少しくらい、ほのめかしてくれたって良かったじゃない」
「え、無理」
「少しくらいいいじゃない!」
「無理じゃね?」
無理じゃないわよ! その忍の考えのせいで、あたしがどれだけ泣いたか分かってる!?
分かってない。例え分かってても、忍は絶対自分の意志を曲げないんだろうけど……。
「そういうのって、お前のことちゃんと好きになってからじゃね?」
「…………」
いつのまにか止まっていた涙。目を見開くと、忍は悪戯っ子みたいに笑った。
……今、何て言った? ほのめかした? そういうの、ちゃんと好きになってからって言っといて?
それって、ねぇ。
それってもう、あたしのこと――…。