『えー、今日はまさに体育祭日和で――…』
「校長話しなげー」
5月末近く、今日は体育祭。
学年ごとに色の違うラインがあしらわれた黒いジャージを着た全生徒が、校庭に並ぶ。
そんな中で、あたしはダランと肩を落としていた。
「辛気クセー。なんなんだよ苺っ」
隣に立つ燈磨が、チュッパチャップスを舐めながら聞いてくる。別に燈磨に恨みはないけど、軽く睨んで溜め息をついた。
「なんだっつーの!」
うるさいわね。知らないだろうけど、今日は忍と勝負するっていう大事な日なのよ。
あたしの今後のシンデレラ人生を決める運命の日なのよ。
「そんなんで忍くんに勝てると思ってんのかよ」
「勝つわよ失礼……っ何で知ってるのよ!!」
「兄貴から聞いた」
……捕まえていい? その害虫捕まえて標本にしていい? むしろ解剖していい?
「のんには言ってねーから」
「…………」
何で、なんて聞かなくたって分かるんだけど……燈磨はあたしに腹を立てているのかしら。
「俺はのんを応援してるけど、知らなくていい場合だってあるだろ」
話の長い校長を見ながら呟いた燈磨を見てから、1番後ろに並ぶのんに振り向く。
すぐに気付いて微笑んでくれるのんに、少しだけ手を振ってから前を向いた。
忍に勝負を挑んだことに後悔はない。あの日、あの時、何も考えずに口走った言葉は、あたしの本心で間違いなかった。
それは笑えるくらい忍が好きだと言うことと、のんの気持ちには答えられないと言うことで。
のんを失ってでも、あたしは忍を追いかけるんだ。