「勝負して、忍」
再び目を見開いた忍の次の表情は、意味が分からないと言いたげだった。
「体育祭で、勝負して。あたしが出た種目で1位を取ったら、透ちゃんに言う。取れなかったら、言わないわ」
「……俺が1位取ったら?」
「何でも言うこと聞くわよ」
テーブルから降りて、スカートの乱れを直す。
忍に背を向けてるついでに熱くなった瞼を閉じて、涙を拭った。
ギャンブラーね、あたし。
でもこうでもしなきゃ、忍のそばにいられない。
どれだけ頑張っても相手すらしてもらえないなんて、あんまりでしょう?
だから、体育祭までの期間。短い間だけでもいいから、忍に関わっていたい。
……負けたら、それはその時に考えればいいのよ。
「……分かった。何でも、言うこと聞くんだな?」
「聞くわよ?」
振り向いて、微笑んでから再び前を向く。
踏み出した足でドアまで向かい、ドアノブに触れたところで「苺」とあたしを呼ぶ声。
「何?」
振り向かずに聞くと、一瞬の沈黙が流れて途切れる。
「ふたりは?」
「……昇降口で待ってるわ」
「そ」
振り向きたい衝動を我慢して、そのまま会長室を飛び出した。