「あ、あ! お前ら今日体育祭で出る種目決めただろ? 何に出る!?」
……ああ燈磨。この空気読めないアナタのお兄さんどうにかして。空気読んだぜ的な顔してるけど、それ勘違いだから。
見なさいよ弟の心底呆れたような顔。むしろ軽蔑してる顔よコレ。
「俺らは障害物だよ。あ、兄貴のは聞いてないから」
「っえ! 何でだよ! 聞けよ!」
「お黙り湊磨」
黒いオーラを纏った奈々先輩が微笑むと、湊磨くんは縮こまる。
「行くわよホラ。透、食券買ってきなさい。全員分」
「何で!? 何で全員分!?」
奈々先輩に背中を押されて、透ちゃんは「ちょ、まっ…」と言いながらあたしを横切る。
通りすがりに奈々先輩に微笑まれて目を奪われていると、忍が横切った。
「……っ」
振り向いても、忍は振り向いてくれない。
「……忍……」
蚊の鳴くような声は聞こえるはずもなくて、代わりに立ち止まったのは大聖先輩だった。
見覚えのある、赤いリボンのバレッタを手に持っている。
「苺ちゃん、これ…」
「忍くん」
大聖先輩の声を掻き消すように、のんが声を出した。あたしも大聖先輩も驚いて、のんを見る。
のんが見つめる先にいるのは、呼びとめたのは、忍以外の誰でもなかった。
ゆっくりと振り向いた忍に、のんは微笑む。