「一緒に行くと思った」

「……行かないわよ」


行けるわけ、ないじゃない。

なんせ目の前でハッキリ言われましたから。そりゃもう恐ろしいほどバッサリ好きじゃねぇって言われましたから。


ついでにあたしの心も折れたわよ。バキッと真っ二つにね。


「ちょっと休戦よ」


髪を撫でながら言うと、燈磨は「ふぅん」と意味ありげに笑った。


その心の内に興味が湧かなかったのは、いつも髪に付けていた物がないことに今更気付いたから。


「……リボン」

「何か言った?」

「早く帰るわよっ」


鞄を持ち上げて教室を出ようとするあたしの後ろで、燈磨が慌ただしく席を立つ音が聞こえた。


忘れてたわ……あたし、リボンのバレッタを忍に投げつけたんだった。


左側の髪に手を通しても、阻むものは何もなくサラリと簡単に手が通る。


思い返すのは、数日前の保健室。涙で輪郭がぼやけてしまった、王子様。


……忍に利用されるのは嫌。だけど、嫌いにはなれない。でも、そばにもいられない。


忍はきっと、あたしが近くにいればいるほど透ちゃんを重ねると思うから。


あたしがいるだけで、忍は透ちゃんに想いを募らせるなんてあんまりでしょう?


だから、会いに行かない。行けない。


あたしのライバルは、あたしだもの。