「ごめんね苺……心の底では応援なんてしてなかった。いつだって、振られればいいって思ってた。苺が、忍くんの好きな人が透だって分かった時、諦めるだろうって。そしたら俺が、苺の王子様になってあげようって……ズルイよね」
言葉が出なくて、首を振った。そんなあたしを、のんは優しい瞳で見つめてくる。
「でも、諦めないって苺は言って。もう、我慢出来なかった。忍くんは苺を泣かせるばっかりなのに……俺なら、ずっと笑わせてあげれるのにって」
――のん。もういいよ。もう、十分だよ。
「っ……のん……」
「……好きだよ、苺」
伸びてきた手を拒めなかったのは、のんの想いが真っ直ぐすぎたから。拒んではいけないと思った。
「忍くんに、負けたくない」
強く抱きしめられて、甘い香水の匂いに涙が溢れた。
今まで何度抱き締められたか、どれだけ頭を撫でられて、涙を拭ってもらったか分からない。
この、あたしをいつも守ってくれていた腕は、もう幼馴染みとしてじゃないんだ。
のんはきっとこれから、好きの気持ちを溢れさせて触れてくる。あたしはそれを、拒める気がしなかった。
「ねぇ、苺」
「……」
「王子様は、“いる”んだよ」
――ああ。
気付いていたんだね。
そうやっていつもいつも、のんはあたしが目を背けたものを代わりに取り出して、大丈夫だよって見せてくれるね。
だけど今までと違うのは、のんが言っている王子様は忍じゃなくて自分のことだということ。
「――……っ」
何も返す言葉が見つからず、ぐちゃぐちゃな思考で重たい頭をのんの胸に埋めた。
忍に出会ってから、いつだって忍のことしか考えていなかった思考に、のんが加わる。
それが何を意味するかなんて、今は考えたくなかった。