「ごめんね」
風に消されないように、出来るだけ聞こえるように発したはずの謝罪は、震えていた。
「ごめんねのん……逃げて、ごめんなさい」
ぎゅっ、とスカートを握って俯いた。なんとなく、涙を見せちゃいけないと思ったから。
もっとも、涙なんてのんには何回も何十回も、見られているんだけど。
「初めて会った時のこと、覚えてる?」
顔を上げるとのんが目の前にいて、涙が頬を滑った。
「覚えてるよ……」
忘れるわけないじゃない。あたし、叫んだんだもの。卒倒しそうだったもの。
「小学に入る前に俺たち家族が引っ越してきてさ、挨拶に行ったら苺のお母さんがウチの子と同い年!って苺連れてきて。初対面で、王子様!ってのはビックリしたよ」
ふわふわした黒髪が、風に揺れる。
のんはあたしから目を離さずに、時たま思い出すように目を伏せたりして、話し始める。
「俺、本当は人見知りだったのにさ。苺が王子様王子様って騒ぐから、可笑しくて」
そうね。騒ぐあたしを、のんは迷惑そうにもせずに、ただ笑ってた。
「透も王子様に憧れてたから、いっつも喧嘩してたよね」
「……どっちが先に王子様を見つけるかってね」
「そうそう。なのに透ってば、私立のお金持ち中学なんか行っちゃって」
柄じゃないのにね、と笑うのんは、いつからあたしのことを好きだったんだろう。