「知ってたよ、苺。俺はずっと、転校してきた時から」

「……」

「のんはいつだって、お前の話ばっかだった」


嗚咽が、廊下に響く。涙が、廊下に落ちる。


「頼むよ……。のんの気持ちを、なかったことにすんな」


腕に込められていた力が緩んで、引かれる。あたしは黙って、俯いたまま足を前に進めた。


泣くあたしを連れる燈磨は、どんな目で見られているんだろう。それでもあたしは歩かなきゃいけない。


のんに会わなきゃいけないと、分かってはいたから。ズルズル逃げたって、何も変わらないことは分かっていたから。




「のん」


連れて行かれたのは屋上だった。ドアを開けた先に、フェンスへ手を掛けて空を仰ぐ背中。


それがゆっくりと振り向いて、のんは静かに微笑む。うまく、息が出来ない。


「ほら、苺」


背中を押されて、あたしはヨロリと一歩だけのんに近づく。


「じゃあ俺授業出るから。センコーには適当に言っとく」

「ありがとうね、燈磨」


そう言ったのんに、軽く手を上げて去っていく燈磨を見送って、あたしは数メートル先にいるのんに視線を移した。


のんは相変わらず、微笑みを崩さない。


「どこに行ってたの?」

「……3年2組」

「あはっ! 昴たちの教室? 見つからないわけだ」


クスクス笑う、いつもの通りすぎるのんが分からない。


なかったことにしても、いいの? 聞かなかったことにしてもいいの?


……そんなこと、出来ないのに。