「……嫌よ。絶対無理。どんな顔して会えばいいのよ」
無理でしょう? 分からないでしょう?
「……のんは、ずっとあたしを守ってくれてたのよ」
あたしはそれを、ずっと幼馴染みだからだと思っていた。
そう、思ってたから。あたしはのんを王子様だと思うのは止めた。
とっくの昔。出会ったばかりの頃の話だけど、それでもこの記憶は、あたしにとって大事な、大切な記憶。
「だったらありがとうの一言でも言えっつーの」
歪む視界の中で、息を切らしながらあたしを見下ろしていたのは、燈磨だった。
昴先輩達は、突然背後に現れた燈磨に驚いてる。
「どこに逃げたかと思ったら……はぁ、教室戻んぞ」
「っや!」
「すんません。苺が迷惑掛けたみたいで」
燈磨が昴先輩達を越えて、あたしの腕を掴む。振りほどこうにも力が強くて敵わない。
「いや、俺らは別に……何も出来ないしね」
苦笑するキョウ先輩に燈磨は頭を下げて、あたしを連れていこうとする。
「やだ! 燈磨っ! 離してよ!」
力の限り抵抗したって、いくら叫んだって、燈磨は許してくれない。
引きずられるように廊下まで連れてかれると、いよいよあたしは恐怖心から泣きだす。
「やだってば! 会えない! いきなり好きだなんて困る!」
「俺は知ってたよ!!」
大声に体を揺らすと、燈磨は悔しそうに前髪を掴む。
その表情はどう見たって悲しそうで、苦しそうで、泣きそうだった。見ていられなくて、とっさに俯いてしまうほどに。