つま先が床に着いても、あたしは後ろから抱き締められたまま、目を覆い隠されていた。
涙を流す瞳を隠したのは。
「のん……」
燈磨の声に、鼓動が早まる。全身の血が、体中を駆け巡る。
「もうやめよう、苺。……見てられない」
解き放たれた視界で真っ先に映ったのは忍だった。
だけど忍はあたしの後ろにいるであろうのんを見上げていた。
逸る心を押さえながら恐る恐る振り向くと、のんは真っ直ぐ、あたしを見つめていた。あたしだけを、見ていた。
「……好きだよ苺。ずっとずっと、昔から」
「……」
「俺の、シンデレラになって?」
思わず一歩、後ずさってしまった。
のんの気持ちに驚いたのもあったけど、目の前で微笑むのんは、もうあたしが知っているのんではなかったから。
幼馴染みでも召使いでもない。ひとりの、男の子。
……シンデレラ。
もう本当に、どうすればいいのか分からない。
小森 苺 15歳。
ずっと、これからも幼馴染みだと思っていた人が、あたしをシンデレラに望んできました。
あたしにとって、王子様の存在は忍だけ。
だけど、のんは大事。
だってのんは、あたしが王子様だと思った、初めての人。