「じゃあ、もっとガンバレよ」
「簡単に言わないで」
「あら、簡単なことよ?」
だからどっから湧くのよオッサン!
頼んでないデザート片手に、個室に入ってきたのは見目麗しい店長。もといオッサンは、綺麗な飴細工が輝く苺のムースを目の前に置いて、微笑んだ。
「好きだから苦しくなって悲しくなって、傷ついて悩んで。どうすればいいか分からなくて……それでも好きで、涙が出るんでしょう?」
言葉が出なくて頷くと、フフッと嬉しそうな笑い声。
「立派ね。いいのよ、今どれだけ悩んでもいいの。泣いても、逃げたっていいわよ? 最後まで頑張るならね」
なんであたしは、こんなオッサンに泣かされなきゃいけないのかしら。
「でも、頑張って、忍の気持ちはどうにか出来るの?」
「知らないわよ。アタシ忍くんじゃないもの」
「苺っ抑えろ!! 我慢だ!」
横にあったフォークを掴んで振り上げると、隼人先輩に止められた。
分かってるけど、ムカつくわ!!
「見かけによらず凶暴ね! ……ま、全身全霊でぶつかることね。あなたのままで。簡単なことでしょう?」
簡単だけど、やっぱり言葉で言うほど簡単じゃないわ。
「透ちゃんなんて近すぎる……」
他の、見知らぬ人だったら良かったのに。
「もうっ! めんどくさい子ね!!」
「ほっといてよ。あたしだって、たまにはウジウジするのよ」
「じゃあ後悔すんのか?」
隼人先輩に目を合わせると、バカにしたように笑われた。心底うざったく感じる、自信満々の顔。