違うって、好きな奴なんかいないって。
嘘でもいい。嘘でもいいのよ。
あたしは、忍の言葉なら何だって信じるのに……。
「アイツには、言うな」
……バカ忍。いつからそんなに馬鹿正直になったの? あたしの時は、いつだって誤魔化してきたくせに。
「最低……最低よ、忍……」
我慢しきれなかった涙を流しても、忍の手はポケットから出てこない。さっきは叩かれた頬を心配してくれたのに。
もう嫌。もう、本当に嫌。
気付けなかったあたしを殴りたい。好きな人がいるくせに、あたし次第なんて言った忍を殴りたい。
「……っあたしを、忘れる為に使わないでよ!」
力任せに髪に付けていたリボンのバレッタを取って、忍に投げつけた。
――カツッとバレッタが床に落ちた音がしても、忍は何も言ってくれない。
ただただあたしの瞳から流れる涙だけを見ているようで、ぼやける視界は忍の姿を捉え続けることが困難だった。
忍に想いは届いてなかったんだと思い知らされる。少しもあたしに惹かれてなんかいなかった。
こんなに、どうしようもないくらい好きで好きで仕方ないのに。
忍にはもっともっと好きな人がいて……利用されるなんて、本当にどうしようもない。
「――っ苺!」
呼ぶ忍を無視して、保健室を飛び出した。
走って、走って、どこまで走ったら、忘れられる?
きっと死ぬまで走っても、忘れることなんて出来ないだろうけど。