忍が一歩下がって、代わりに透ちゃんと奈々先輩が目の前に来る。


「ぎゃーー! ほっぺが! だだだ誰にやられたの! 許さん! 渾身の蹴りをお見舞いしてやる!!!!」

「落ち着きなさいよ透。分かってるから、後で好きなだけ八つ裂きにしなさい」

「な、奈々ちゃん……? 分かってるって何で? ねぇ何で? 魔王は健在ですか?」

「お黙りバカ犬」


砂になっていく透ちゃんから奈々先輩に視線を移すと、目が合って微笑まれた。慌てて俯くと、腕を掴まれる。


「のん……?」

「保健室。行こう、燈磨」

「ん? あぁ……いいの?」

「いいよ。ほら、苺」


引っ張られても、あたしの足は動かない。透ちゃんは不思議そうに首を傾げて、奈々先輩は目を伏せて髪を耳に掛けていた。


「苺ちゃん、冷やしてきた方がいいよっ! 忍もだけど、のんのせいでゴメンね! 説教したあとで、皆で様子見に行くから!」

「……うん」


生返事をしつつ忍を見る。忍もあたしを見ていたけど、目が合ってすぐ、なんとも言い難い表情をしながらゆっくりと目を伏せてしまった。


「……忍」


ジンワリと、涙が出てくる。再びあたしと目を合わせた忍はどこか申し訳なさそうで、言葉に詰まる。


それでもあたしはどうしても聞きたかった。聞きたくないけど、聞きたかった。



忍の、好きな人って……。