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「今日も忍くんのとこに行くの?」
帰りのHRが終わってすぐ、カバンを肩に掛けたあたしにのんが話し掛けてきた。
あたしはのんと目を合わせる暇すら惜しいように、鏡を覗いてメイクが崩れていないかチェックする。
「当たり前じゃない。時間を忍以外で何に使えばいいって言うのよ」
ピンクのグロスを塗って、小さな赤いリボンを髪のサイドに付け直しながら言うと、のんは少しふて腐れているみたいだった。
「のーんっ! いいじゃん俺と遊べばっ」
燈磨に肩を抱かれて、のんは頷く。
あたしが言えることじゃないけど、のんってば、もっと友達作ればいいのに。ていうか、まさかこのふたりデキてないわよね?
「バカなこと考えてねぇでさっさと忍くんとこ行け、アホ苺」
あからさまに邪魔!って顔をしてあたしを教室から追い出す燈磨。
文句を言おうとした瞬間、燈磨にあっかんべーされて、勢い良くドアが閉まった。
ムカつくーっ!!
「あたしとのんの方が付き合い長いんだからねっ!?」
ドア越しに叫ぶと、無駄に大きく鼻で笑われた。
きーっっ! もうあんたらなんか、デキてるってことにしてやる!
足音荒く廊下をズカズカと歩き、2階へ向かうとすぐさま忍のクラスを覗いた。
「まだ終わってないの?」
ぽつりと零れた言葉通り、2-3はまだHR中だった。
忍は相変わらず窓際の1番後ろ。隣に座る湊磨くんも前に座る透ちゃんも、憎い。
暫くあたしに気づかないかと願ってみたけど、気づいてはくれなかった。