「忍の好きな人って、誰?」


帰りの電車の中で、あたしを囲うように立っているのんと燈磨を交互に見上げる。


知りたい。でも知りたくない。どっち付かずのモヤモヤを、あたしはふたりに委ねることにした。


「知ってどうすんだよ」


間髪入れず言った燈磨に、やっぱりそう来るのねと思いながら、窓に頭を預けた。


後ろに流れていく景色を眺めながら、もうひとつだけ聞く。


「ふたりはどうして知ったの?」


ガラスに反射するふたりの姿に視線を移すと、のんがまた眉を下げていた。


「隼人先輩って分かる? 俺はその人に聞いたんだよ」


ああ……バカ2号。忍の先輩で仲がいいんだか悪いんだか微妙な、あのパスタ屋のギャル男ね。


「俺は兄貴から」


やっぱり湊磨くんも知ってるわけね。


「ふぅん……」


それだけ返して、ふたりもそれ以上何も言わなくて、再び流れる景色に視線を変えた。


ジクジク、傷が膿んでいくような感覚。新しく傷付いたものか、元からあった古傷なのかは分からない。


だけど確かに、屋上で昔の嫌な記憶が心をさらった。


すぐに追い払ったけれど、気を抜くとまた蘇りそうで怖い。


あたしは揺れる視界の中で、明日は笑っていられますようにと、シンデレラに願った。