「俺の周りウロチョロしないで、どうやって俺のこと落とすんだよ」
ああ、偉そう。ムカつくわ忍。それじゃあ寂しかったって言ってるように聞こえるわよ。
「俺は自分から構いに行くタイプじゃねぇぞ」
だから、それじゃあ会いに来いって言ってるように聞こえるってば。
「引くの、やめろ」
忍の温かい手が涙を拭った瞬間、あたしは忍に抱き付いた。
「――っば!」
ここが階段だということすら忘れて、勢い任せに、込み上げた想いのままに抱き付いた。
「あっ……ぶねぇよこのアホ!!」
ヒンヤリと階段の冷たさが脚に伝わる。
怒る忍は落ちないようあたしを受け止めたみたいで、ふたり揃って階段に腰をおろしている状態だった。
「おい、苺?」
ただ黙って忍の胸にしがみ付いていたあたしは、目の前のカーディガンを涙で濡らす。
「何だよ、どっかぶつけたのか?」
声を押し殺して、あたしは泣いていた。苦しいのに、忍から離れることが出来なくて。
「――わっ! どしたのカイチョー!」
「階段から落ちたん!?」
「ふたりとも大丈夫っ?」
「ああ……俺は平気だけど、コイツが」
屋上から出てきたのか、昴先輩たちの心配そうな声と、戸惑っているような忍の声が、遠くに聞こえた。