「――よぉ苺」


キュッ、と上靴と床の擦れる音に顔を上げる。同時に、我慢していた涙が頬を流れた。


「……な、んで」

「なんで? 飽きたからじゃね?」


1週間ぶりだというのに、相変わらず返答が早い。


階段の踊り場に、ジャージ姿のまま息を切らした、王子様が立っていた。


「あ、飽きたって何よ!」


一度流れてしまった涙は止まることはなくて、情けないほどボロボロ零れる。


「押して引いて作戦? 飽きた。それ意味なくね?」

「あったわよ!」


少なくとも、あたしにはあったわ。会いに来てくれないかしらって、寂しく思ってくれないかしらって。


「意味ないなんて、言わないで」


そんなこと言われたら、どうすればいいのか分からない。


せっかく会いに来てくれたのに意味ないなんて言われたら、期待すら出来ないじゃない。する暇もなかったじゃない。


どうして来たのって、聞くことすら出来ない。


「泣くのは反則じゃね?」


泣いてるのに視線を逸らさないあたしに、忍は困った顔をして「アホだな」と呟いた。


流れる涙を拭うことすらせずにいると、忍はポケットに両手を突っ込んで、俯きながら階段を上り始める。


「……っ」


あたしの1段下まで上ってきた忍は顔を上げて、大好きな瞳で、力強い瞳で見上げてきた。


これ以上何も言いたくないと思って、グッと口を噤む。