「さあな?」


ポケットから手を出してぐしゃっと乱暴にあたしの頭を撫でると、横をすり抜ける忍。


振り返れば、通行人の誰よりも輝いて見える忍の背中。


……その背中に今すぐ抱き付きたい。でも、しない。


抱き付いたら、振り返って抱き締めて欲しいと思ってるから。息苦しくなるほど、忍の腕に包まれたいと思ってるから。


欲が、あたしを支配するの。叶わないと分かっているのに、望んでしまうの。


それでも抱き付くのがあたしだけど、たまに身動きが取れなくなる。


忍の優しさは、時に残酷だと感じるから。



「――いってぇ!」

「ふんだ! さあなって何よ! バカバカ忍のバカ!」

「背骨粉砕する気か!」

そしたら24時間つきっきりで介護してあげるから安心して!


叩かれた背中を痛そうにさすりながら、忍は横目で「なんなんだ」と言いたげな視線を向けてくる。あたしは知らん顔して、前だけ見て歩いた。



シンデレラ。あたしにもいつか貴女みたいに、王子様が迎えに来てくれるかしら。探しに、来てくれるかしら。


でも逆なのよね。あたしと忍は。


「ねえ忍」

「なんだよ」

「押してダメなら?」

「引くんじゃね?」


間髪入れず答えた忍は、え?って顔してあたしを見た。


無論あたしの目はキラキラしてますけど、何か?