桐原、か。

口の中で声には出さずに名前を呼んでみる。

思っていたよりずっと優しそうに見えた。

もとからのイメージで恐いと思い込んでいたからかもしれないけれど。

…それでもアイツの声や口調に安心感を覚えた自分に戸惑う。

まぁちゃんが好きになった理由がちょっと分かってしまった、なんて思って苦笑いを浮かべると教科書を抱え直して走り出す。

さっき通った廊下からはさっきより薄暗くなった外の景色が見えて焦る。

焦っていたのは確かだけれど、走るその横顔がさっきより少し微笑んでいたのには気付かないふりをしていた。


まだ、気付きたくなかった。