「…疲れた」


張り詰めていた糸のような物が一気に緩み、キッチンの前でひとりうな垂れる。
コーヒーを飲むのも、化粧を落とすのも面倒臭くなった私は携帯を置いて寝室へと向かった。


別に奏次と会話するのが疲れる訳じゃない。
ただ…


ただ?
なんだろう。



「恐い…?」



うん、多分そんな感じ。


あの日、自分が下した決断に後悔はしていない。
だけどそれによって奏次が苦しんでいる事は知ってる。


このまま“莉乃”を続けるには奏次との間に距離が必要で。
この不安定な関係がいつ崩れてしまうかと、私はそれに怯えているんだ。



「明日、休みで良かったかも」



ベッドへと寝転がると疲れ切った体には、すぐに眠気がやってくる。
それに逆らうことなく瞼を閉じて、そのまま意識を手放した。